大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)15452号 判決

原告

川田工業株式会社

右代表者代表取締役

川田忠樹

右訴訟代理人弁護士

石原寛

吉岡睦子

山川隆久

青木英憲

被告

株式会社創和システム

右代表者代表取締役

晴山正樹

右訴訟代理人弁護士

杉本秀夫

田邊勝己

神﨑浩昭

佐藤文彦

櫻井義之

主文

一  原告と被告との間において、訴外飯田浩美が平成四年七月二二日、被告に対して行った別紙債権目録記載の債権の譲渡を取り消す。

二  被告は、前項により債権譲渡が取り消された旨を訴外東食品株式会社(代表取締役鈴木勝己、東京都港区南青山五丁目一番二七号)に通知せよ。

三  被告は、原告に対し、金二一六万二九二五円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第三項及び第五項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項及び第二項と同旨

2  被告は、原告に対し、金四〇一万九〇三七円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告の飯田浩美に対する債権

原告は、飯田浩美(以下「飯田」という。)が株式会社シーダブルジェイ(以下「シーダブルジェイ」という。)と共同で振り出した別紙小切手目録(一)ないし(四)記載の小切手四通(額面合計二億八三一六万九八七六円、以下「本件小切手」という。)を所持しており、平成四年八月三日、東京都新宿区において、株式会社三菱銀行新宿新都心支店に本件小切手を呈示したが、資金不足を理由に支払を拒絶された。

(二)  原告の飯田に対する債権の取得経緯

原告は、平成二年一〇月三一日、岡田牧子との間で、同人所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)上に同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築すること、代金は三億六〇五〇万円とし、前金として五四〇〇万円を同年一一月一三日に、残金三億〇六五〇万円を完成引渡時にそれぞれ支払うことを約束して請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

原告は、平成三年一二月、岡田牧子から、発注者を息子岡田祥太郎の内縁の妻である飯田に変更したいとの申入れを受け、同月一九日、原告、岡田牧子及び飯田との間で、岡田牧子の原告に対する債務(請負工事残代金二億六四二七万円及び解体工事残代金一二七七万二〇〇〇円、合計二億七七〇四万二〇〇〇円。以下「本件請負残代金」という。)について、飯田が右債務額を額面とする約束手形又は小切手を原告に差し入れること、右債務を担保するため、本件建物完成後に抵当権設定仮登記をすること等を条件として、右債務を飯田が引き受けることを合意した。そして、飯田は、同日、原告に対し、シーダブルジェイと共同で振り出した平成四年一月三一日付先日付小切手(額面二億七七〇四万二〇〇〇円)を差し入れ、同月一三日、本件建物について所有権保存登記をするとともに、債務者を飯田とする抵当権設定仮登記をした。

原告は、残代金の支払期日である同月三一日、飯田から支払の猶予を求められたので、同日付小切手に金利分を付加した同年三月三日付小切手と差し替え、本件建物の保存登記済証を代金完済まで預かることにして支払期日を延期したが、更にその後数回に渡り支払期日を延期して小切手の差替えを受けた後、同年六月三〇日、本件小切手の差入れを受けた。

2  飯田の詐害行為

(一) 飯田の東食品株式会社に対する債権

飯田は、東食品株式会社(代表者及び所在地は主文第二項のとおり、以下「東食品」という。)に対し、平成四年七月二二日当時、本件建物の二階及び三階部分を月額賃料一八六万一二九二円、光熱費三〇万一六三三円で賃貸していた。

(二) 飯田は、同日、被告との間で、飯田が被告に対し、飯田の賃借人東食品及び本件建物一階の賃借人フランスエスパス有限会社(以下「フランスエスパス」という。)に対する同年八月分から平成七年七月分までの賃料債権(合計月額賃料二九六万一二九二円)を譲渡し(以下、右賃料債権を「本件債権」と言う。)、右期間中、被告が飯田に対し、月額賃料五五万六〇〇〇円及び保証金二〇〇〇万円を支払うことを約束した(以下「本件債権譲渡」という。)。

そこで、東食品は、同年八月三一日、同年九月分賃料一八六万一二九二円及び光熱費三〇万一六三三円を朝銀千葉信用組合船橋支店の被告名義の普通預金口座に送金して支払い、さらに、同年一〇月一五日、同月分賃料七二万八〇五六円を、同月二八日、同年一一月分賃料一一二万八〇五六円をそれぞれ東京法務局に弁済供託したので、被告は、右供託金の還付を受け、合計四〇一万九〇三七円を取得した(以下、同年九月分ないし一一月分の賃料債権を「本訴請求債権」という。)。

(三) ところが、飯田は、本件債権譲渡当時、資力を有していなかったため、飯田が被告に対して本件債権を譲渡したことにより、総債権者に対する弁済を不足させた。すなわち、

(1) 前記のとおり、飯田は、当初の本件請負残代金支払期日である平成四年一月三一日以後数回にわたって支払期日の延期を求め、同年六月三〇日、本件小切手を原告に差し入れたが、同年七月下旬から内縁の夫岡田祥太郎とともに所在不明となり、同年八月三日、本件小切手が資金不足を理由に支払を拒絶された。

(2) 飯田は、本件債権譲渡当時、本件建物を所有していたが、敷地の本件土地所有者岡田牧子との間でどのような敷地利用権が設定されているのか明らかではなく、仮に敷地利用権が設定されていたとしても、飯田の本件建物に対する所有権保存登記は、同年一月一三日であり、後記(3)記載の本件土地に設定されている抵当権に対抗することができないから、本件建物の競売手続においては、敷地利用権がないものとして売却せざるを得ない。

(3) 原告は、本件建物に抵当権設定仮登記をしているが、以下のとおり、右抵当権を実行しても本件建物のために法定地上権が成立しないため、抵当権の実行により本件請負残代金債権の回収を図ることができない。

本件土地上には、従前、岡田牧子所有の別紙物件目録(三)記載の建物(以下「旧建物」という。)が建っていて、本件土地及び旧建物には、共同で左記のとおり抵当権が設定されていた。本件建物は、旧建物が取り壊された後、本件土地上に建築されたものである。

① 乙区一番

昭和六三年九月二六日受付

原因 昭和六三年九月二一日保証委託契約に基づく求償債権の昭和六三年九月二六日設定

債権額 五億二六八九万九九九二円

債務者 岡田牧子

抵当権者 ダイヤモンド信用保証株式会社

共同担保目録す第九二四五号

② 乙区三番

平成元年一〇月三一日受付

原因 平成元年一〇月三一日金銭消費貸借同日設定

債権額 六億五〇〇〇万円

債務者 岡田牧子

抵当権者 ダイヤモンド抵当証券株式会社

共同担保目録せ第七一四五号

本件土地の登記順位一番の抵当権者であるダイヤモンド信用保証株式会社(以下「ダイヤモンド信用保証」という。)が本件土地及び旧建物に共同担保を設定した当時、いずれも岡田牧子の所有であったが、東京地方裁判所民事第二一部(執行部)においては、土地及び建物に共同担保を設定した後に建物が立て替えられたときは、原則として新建物に法定地上権は成立しないという見解を採っており(東京地方裁判所平成三年ケ第一一三二号、土地建物競売事件、平成四年六月八日同裁判所民事第二一部執行処分参照)、本件建物の競売手続においても法定地上権の成立を認めないことが確実であるから、現段階において、原告が本件建物の売却代金によって債権を回収することはできない。

なお、本件土地については、ダイヤモンド抵当証券株式会社(以下「ダイヤモンド抵当証券」という。)の申立てにより、平成五年三月二二日、競売開始決定がされた。

3  詐害意思

飯田は、以下のような事実によると、本件債権譲渡により債権者を害する認識を有していたということができる。

(一) 前記のとおり、飯田は、平成四年七月当時、債務を弁済する資力を有していなかった。

(二) ところが、飯田は、被告に対し、同年七月二二日、東食品及びフランスエスパスに対する平成四年八月分から平成七年七月分までの本件債権(合計月額賃料二九六万一二九二円)を、月額賃料五五万六〇〇〇円で譲渡した。

これは、現実に受ける賃料収入に比べて著しく低廉な価格による譲渡であり、被告が飯田に差し入れたとする保証金二〇〇〇万円の運用利益を考慮してもなお、対価性に欠ける詐害性の強い行為である。

(三) 飯田は、平成四年七月三〇日、本件土地に賃借権設定仮登記をしており、原告が本件建物の登記済証を預かっていたにもかかわらず、同年一〇月八日、季潮に対して本件建物の所有権移転登記をした。季潮は、通称大山潮といい、被告の取締役である大山光夫の妻である。

このことから、右所有権移転登記もまた、本件債権譲渡と同様に、債権者を害する目的でされたものと推測される。

4  よって、原告は、被告に対し、詐害行為取消権に基づき、飯田と被告との間の本訴請求債権の譲渡を取り消し、本訴請求債権譲渡の取消しを東食品に対して通知すること並びに被告が賃料として受領した四〇一万九〇三七円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の反論

1  請求原因l(一)及び(二)の各事実は不知。

2  請求原因2(一)の事実は認める。

3  請求原因2(二)のうち、飯田が、被告に対し、東食品及びフランスエスパスに対する平成四年八月分ないし平成七年七月分までの本件債権を譲渡し、右期間中、被告が飯田に対して月額賃料五五万六〇〇〇円及び保証金二〇〇〇万円を支払うことを約束したことは認めるが、その余の事実は否認する。

東食品及びフランスエスパスは、本件建物の雨漏り等の瑕疵を理由に、賃料全額合計二九六万一二九二円の支払には応じなかった。

4  請求原因2(三)の冒頭の事実は否認する。

5  請求原因2(三)(1)の事実は不知。

6  請求原因2(三)(2)のうち、本件建物に敷地利用権がないことは否認する。

7  請求原因2(三)(3)のうち、本件土地及び旧建物に、共同担保として、原告主張の抵当権が設定されていたことは認めるが、飯田所有の本件建物について法定地上権が成立せず、原告が抵当権を実行しても債権を回収することができないことは否認する。

(一) 原告は、本件建物に抵当権を設定しており、右抵当権の実行によって債権を回収できないことが判明すれば、一般債権者として債権者取消権を行使することができるが、そのためには、抵当権を実行し最低売却価額が決定されなければならい。

(二) 本件建物については、以下のとおり、法定地上権が成立するので、抵当権の実行により、原告は債権を回収することができる。

ダイヤモンド信用保証が昭和六三年九月二一日に本件土地及び旧建物に抵当権を設定した際、本件土地及び旧建物はいずれも岡田牧子の所有であり、抵当権者は法定地上権の成立を予想して目的物の担保価値を評価しているから、再築後の本件建物が飯田の所有であるとしても、旧建物のために法定地上権が成立するのと同一の範囲で法定地上権の成立が認められる(大審院昭和一〇年八月一〇日判決民集一四巻一五四九頁、大審院大正一二年一二月一四日連合部判決民集二巻六七八頁)。

従って、本件建物については、法定地上権が成立するから、原告は、抵当権の実行によって十分に債権の回収が得られるはずである。

(三) 東京地方裁判所は、平成四年六月八日、土地建物競売事件の執行処分において、共同抵当に付されていた旧建物を取り壊した後の新建物には法定地上権が成立しない旨判断したが、これは、いわゆる執行妨害に当たる特殊な事案についての判断であり、本件とは、事案を異にする。

仮に、右処分にいう「共同担保の対象となった旧建物が競売の前に滅失したときは、その後建築された新建物には、原則として法定地上権は成立せず、例外として、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたとき、または抵当権者がそのような抵当権の設定を受ける利益を放棄したときには、新建物についての法定地上権が成立する」という考え方によっても、本件建物には法定地上権の成立が認められる。

なぜなら、本件建物の所有者であった飯田は、本件土地所有者岡田牧子の息子岡田祥太郎の内縁の妻であり、実質的には、本件建物も岡田牧子の所有であるといえる。そして、本件土地の一番抵当権者であるダイヤモンド信用保証は、本件建物にも抵当権を設定することは容易であったはずであるが、本件建物には全く抵当権を設定しておらず、本件建物に抵当権を設定する利益を放棄したといえるからである。

8  請求原因3の冒頭の事実は否認する。

9  請求原因3(一)の事実は否認する。

10  請求原因3(二)の事実は否認する。

被告は、不動産賃貸業を主たる業務とする会社であり、新築建物等を一括して賃借し、これに内装を加え、転貸することによって利鞘を稼ぐという、リース店舗形態の営業を行っており、これによって建物所有者は、賃借人との契約及び明渡しに関するトラブルを回避することができる。

被告は、後記のとおり本件建物について、飯田から、建物に瑕疵があるため東食品ら賃借人との紛争が絶えないので、リース店舗形態にしたいとの申入れを受けた。そこで、調査した結果、本件建物には工事の失敗による瑕疵が多く、賃借人が賃料全額の支払に応じず、一部供託や賃料不払の状態になっていることが判明したので、被告において、採算の見込みのある賃料額を算定して飯田に呈示し賃借することにした。しかし、賃借人が転貸借への変更に反対することが予想されたため、賃借人が退去するまでの間本件建物を管理する必要上、被告は、本件建物の鍵の引渡し及び本件債権の譲渡を受け、賃借人に右債権譲渡を通知して、実質的には転貸借と変わらない形態を整えた。そして以後、転貸借に変更する予定であった。そのために、被告は、飯田に対して二〇〇〇万円もの多額の保証金を支払った。

したがって、本件債権譲渡は、被告が飯田に対して相当な対価を支払って行われたものであるから、詐害行為ではない。

11  請求原因3(三)の事実は否認する。

三  抗弁

被告は、以下のとおり、債権者を害することを知らずに、飯田から本件債権を譲り受けた。

1  被告は、平成四年七月一〇日ころ、同業者丹羽義博の紹介で飯田と知り合い、同人から、本件建物一階にフランスエスパス、二階及び三階に東食品が入居しているが、原告の工事の瑕疵による建物の構造上の欠陥により賃借人とのトラブルが絶えず、賃借人はいずれ退去する予定なので、本件建物を借りて欲しい旨の申入れを受けた。

そこで、被告は、賃借人はいずれ退去する見込みであること、飯田との賃料をある程度低く押さえることで本件建物の瑕疵は補填できること及び立地条件等を考慮した結果、本件建物を賃借することにし、同月二一日、飯田との間で、本件建物を月額賃料五五万六〇〇〇円、保証金二〇〇〇万円で賃借する旨の契約を締結し、同日、現金で保証金を支払い、翌二二日、本件建物を管理する必要上本件債権の譲渡を受けた。

2  被告は、飯田の資力を調査する必要性は全く考えておらず、本件債権譲渡が債権者を害することについて全く認識がなかった。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁冒頭の事実は否認する。

2  抗弁1及び2の各事実は不知。

第三  証拠

本件記録中、書証及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1(一)及び(二)の各事実につき、甲第一ないし第四号証の各一、二、第五ないし第一三号証、乙第六号証及び証人松江与志一の証言によると、以下の事実が認められる。

原告は、平成二年一〇月三一日、岡田牧子との間で、同人所有の本件土地上に本件建物を建築すること、代金は三億六〇五〇万円とし、前金として同年一一月一三日に五四〇〇万円を、完成引渡時に残金三億〇六五〇万円をそれぞれ支払うことを約束して本件請負契約を締結し、同時に、飯田との間で、岡田牧子の右債務について保証契約を締結した。

同年一二月、原告の建築事業部営業部営業課長代理の松江与志一は、岡田牧子の代理人弁護士から、本件建物の発注者を岡田牧子から飯田に変更し、本件請負残代金を平成四年一月三一日に支払いたいとの申入れを受け、飯田については、岡田牧子の息子岡田祥太郎の内縁の妻で、岡田祥太郎とシーダブルジェイという会社を経営しているとの説明を受けた。

これに対して、原告は、平成三年一二月一九日、本件請負残代金合計二億七七〇四万二〇〇〇円(請負工事残代金二億六四二七万円及び解体工事残代金一二七七万二〇〇〇円)の支払を担保するため、本件建物完成後に、抵当権設定仮登記をすること、右残代金額を額面とする約束手形または小切手を原告に差し入れることを条件として岡田牧子の申入れを承諾した。

そこで、原告、岡田牧子及び飯田は、右合意に基づいて、本件請負契約の発注者を飯田に変更するとともに、飯田が原告に対し、シーダブルジェイと共同で振り出した額面二億七七〇四万二〇〇〇円の平成四年一月三一日付先日付小切手を差し入れ、同月一三日、本件建物について所有権保存登記をした上、原告に対して抵当権設定仮登記をした。

しかし、飯田は、本件請負残代金の支払期日の同月三一日、原告に対し、五〇〇万円しか資金が調達できなかったため、支払期日を同年三月三一日まで延期してほしい旨申し入れたので、原告は、やむを得ず右申入れを受け入れ、飯田から五〇〇万円の支払を受け、本件建物の保存登記済証を残代金完済まで預かることにして、同年一月三一日付小切手を同年三月三一日付小切手と差し替えた。その後も、飯田から、何度かにわたって支払猶予の申入れがあったので、原告は、その都度小切手の差替えに応じ、同年六月三〇日、同年七月三一日を振出日とする本件小切手(甲第一ないし第四号証の各一、二)の差入れを受けた。

原告は、同月中旬ころ、飯田からの連絡が途絶えたので、東京都渋谷区神宮前にある飯田の自宅を訪ねたところ、飯田、岡田祥太郎ともに不在で、以後、両名からの連絡は一切なく、所在不明の状態となった。さらに、同年八月三日、本件小切手を支払人株式会社三菱銀行新宿新都心支店に呈示したところ、資金不足を理由に支払を拒絶され、不渡りとなった。

以上で認定した事実によると、請求原因1(一)及び(二)の各事実が認められる。

2(一)  請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  請求原因2(二)のうち、飯田が、被告に対して、東食品及びフランスエスパスに対する平成四年八月分から平成七年七月分までの本件債権を、右期間中、被告が飯田に対して、月額賃料五五万六〇〇〇円及び保証金二〇〇〇万円を支払うことを約束したことは当事者間に争いがなく、甲第一六号証の三ないし七によると、東食品は、飯田から、本件債権を被告に譲渡した旨の通知を受け、平成四年九月分賃料一八六万一二九二円及び光熱費三〇万一六三三円、合計二一六万二九二五円を被告に支払ったが、原告と被告との間で、債権譲渡が詐害行為に当たるか否かをめぐって本件訴訟が係属し、債権者を確知することができないとして、同年一〇月分賃料七二万八〇五六円及び一一月分賃料一一二万八〇五六円を東京法務局にそれぞれ弁済供託したことが認められる。本件全証拠によっても、被告が右一〇月分及び一一月分の賃料の還付を受けたことは認められないが、被告が未だ還付を受けていないとしても、前記のとおり本件債権は被告に譲渡されたものであり、飯田が被告に対して賃料債権を譲渡したこと、東食品に対して右譲渡を通知したこと自体は、原告・被告間に争いがなく、現時点においては、被告に本件債権が帰属しているということができるから、右弁済供託に係る債権も含めて詐害行為に該当するか否か判断すべきものである。

以上によると、被告は、飯田からの本件債権譲渡により東食品に対する本訴請求債権を取得し、そのうちの同年九月分賃料及び光熱費二一六万二九二五円の支払を受けたことが認められる。

3  請求原因2(三)(1)の事実は、前記1認定の事実により認められる。

4  請求原因2(三)(2)につき、後記のとおり本件土地に原告主張の抵当権が設定されていることは当事者間に争いがない。すなわち、岡田牧子所有の本件土地には、昭和六三年九月二六日にダイヤモンド信用保証、平成元年一〇月三一日にダイヤモンド抵当証券の各抵当権設定登記がされている。そして、甲第八号証によると、飯田所有の本件建物は平成三年一二月一八日に新築され、平成四年一月一三日に所有権保存登記がされていることが認められる。したがって、仮に、岡田牧子と飯田との間で本件土地利用権が設定されていたとしても、右敷地利用権は短期賃借権(民法三九五条)が認められる場合はともかく、そうでない限り、抵当権者に対抗することができないものである。

5  請求原因2(三)(3)につき、本件土地及び旧建物に共同担保として原告主張の抵当権が設定されていることは当事者間に争いがなく、甲第八号証、乙第六号証及び証人松江与志一の証言によると、旧建物が平成二年一〇月二四日に取り壊され、本件建物が平成三年一二月一八日、原告により建築されたこと、飯田が平成四年一月一三日、本件建物に所有権保存登記をし、原告が、同日、抵当権設定仮登記をしたことが認められる。

原告は、右事実を前提として、本件建物に対して抵当権は設定しているが、本件建物には法定地上権が成立しないので、競売により原告の飯田に対する債権を回収することができない旨主張する。

(一)  本件建物の不動産としての価値を考えるに当たっては、同一所有者に属する土地及び地上建物に抵当権が設定された後、右建物が取り壊されて新建物が建築され、土地抵当権が実行された場合、法定地上権が成立するか否かが問題となる。

(1) この点に関し、東京地方裁判所民事第二一部(執行部)においては、土地及びその上に存在する旧建物について、共同抵当権の設定を受けた者がいる場合に、その後旧建物が滅失して同じ土地上に新建物が建築された場合、旧建物に法定地上権が成立する要件があったときでも、その法定地上権は新建物には成立せず、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたとき、又は土地の抵当権者がそのような抵当権の設定を受ける権利を放棄したときには、新建物について法定地上権が成立するものとする見解を採用しているようであり、右見解によると、本件の執行手続においては、法定地上権が成立しないとされる可能性が高いと考えられる。

(2) 右見解の根拠とするところは、主として、①法定地上権の制度の趣旨は、抵当権設定当時の当事者の合理的な意思を尊重して、競売の際に建物のために地上権を留保すべきものとする意思の内容を法律の力で実現することにあるが、それを超えて建物の価値を維持することのみを強調して、法定地上権の成立を強制することまで含むものではないこと、②同一人の所有する土地と地上建物に共同抵当権が設定された場合、将来競売によって土地と建物の所有者が異なることになったときでも、当事者双方は建物のために地上権を留保する意思を有しているのが通常であるが、それは抵当権設定当時の旧建物が競売のときまで存続することを前提としているのであり、競売になる前に旧建物が滅失し抵当権が消滅した場合にまで、新建物のために地上権を留保する意思を有するということは考え難いこと、③新建物について法定地上権の成立を否定したとしても、第三者に対して不測の損害を及ぼすような事態は考えられないのであって、新建物を建築しようとする者は、土地の登記簿を見れば、抵当権が設定されていることを知り、その共同担保目録を見れば、旧建物が抵当権の共同担保になっていたことを知ることができるから、抵当権者が土地の担保価値の全部を把握していたことを確認し得ること、④もし、新建物について土地と同一内容の抵当権を設定しないで、法定地上権の保護のみを要求するとすれば、抵当権者に多額の損失を与えたまま、何ら対価を支払うことなく多大な利益を得ることとなり不当であることにあるものと考えられる。

これに対して、従来から、いわゆる個別価値考慮説の立場から法定地上権の成立を肯定する判例、学説がある一方で、いわゆる全体価値考慮説の立場から法定地上権の成立を否定する判例、学説があることは周知のとおりである。

かつて、大審院は、同一所有者に属する土地と建物に抵当権を設定した後、建物が滅失した場合において、抵当権設定者が自ら建物を再築した場合に限らず、妻に建物を再築させて土地の使用を許諾し、かつ、自ら妻とともに建物に居住してその土地の利用を継続する場合においても、法定地上権の成立を認めた(大審院昭和一三年五月二五日判決民集一七巻一一〇〇頁)。しかし、右事案は厳密にいえば本件とは事案を異にしているから、これを本件に適用することには疑問がある。

肯定説及び否定説のそれぞれに根拠があるといい得るけれども、担保設定の実務に照らすと、土地とその地上の旧建物に共同抵当権を設定した場合、抵当権者としては、更地に抵当権を設定した場合と同様に、土地及び旧建物の担保価値全体を把握しているとみるのが合理的な意思解釈であるから、その後旧建物が滅失し又は取り壊され、第三者によって新建物が建築されたことにより、新建物について法定地上権が成立するとすれば、その担保価値は、更地価格から新建物のための法定地上権の価格を控除した底地価格しか把握することができないことになって著しく担保価値が減少する結果となり、抵当権者としては、当初予期しなかった事態の発生に対処するため、新たに追加担保の提供を受ける必要が出てくるのであって、もしそれが実現しなければ、債権の回収を図ることが困難になることは明らかである。したがって、当裁判所としては、例外的に法定地上権の成立が認められる場合の要件についてはなお検討する余地があるとしても、基本的には前記執行部の見解が正当であると考える。

(3) ところで、本件土地建物の譲渡及び賃借権設定の経緯についてみると、前記認定事実に甲第五ないし第一二号証、乙第六号証及び証人尾中完次、同松江与志一の各証言により、以下の事実が認められる。

本件建物は、平成三年一二月一八日、飯田の注文に基づいて原告が完成し、平成四年一月一三日、飯田名義で所有権保存登記がされ、さらに、同日に飯田と原告との間で、平成三年一二月一九日本件請負契約残代金を担保するために締結された抵当権設定契約を原因として抵当権設定仮登記がされた。しかし、飯田の原告に対する右債務の支払が滞り、何度か支払期日が延期された後、同年七月中旬ころから突然飯田との連絡が途絶え、所在不明となった。

ところが、飯田は、その後の同月二二日、被告に対し、本件建物について、期間三年、月額賃料一平方メートル当たり一四一〇円、譲渡、転貸ができる特約付きの同月二一日設定の賃借権設定仮登記をし、次いで同月三〇日、岡田牧子(飯田は、岡田牧子の息子岡田祥太郎と内縁関係にある。)から、本件土地について、期間五年、月額賃料一平方メートル当たり六〇〇円、譲渡、転貸ができる特約付きの同月二一日設定の賃借権設定仮登記を受け、さらに、同年一〇月五日、季潮に対し、本件土地について、同月二日売買を原因とする仮登記賃借権移転仮登記をし、次いで同月八日、季潮に対し、本件建物について、同月二日売買を原因とする所有権移転登記をした。

右のとおり、飯田が本件土地の賃借権設定仮登記をしたのは、同人が本件建物の所有権保存登記をしてから半年経過後のことであり、しかも、その原因である賃借権設定は、被告に対する本件建物の賃借権設定と同日であり、右本件建物に対する賃借権設定仮登記が右本件土地賃借権設定仮登記よりも先にされている。そして、岡田牧子と飯田の間の本件土地の賃貸借契約に関する書類は提出されておらず、右契約締結の経緯は不明であって、果して、飯田と岡田牧子との間で、真実賃貸借契約が成立したか否か明らかではない。

また、平成四年七月二一日、被告は、飯田から一括転借を予定して、本件建物の賃料債権を譲り受けたが、同年九月七日、原告が右債権譲渡は債権者に対する詐害行為に当たるとして本訴を提起し、訴状副本が同月九日被告に送達された。被告取締役大山光夫の妻である季潮は、同年一〇月二日、飯田から本件建物所有権及び本件土地賃借権を売買により譲り受けたとして、同月五日に仮登記賃借権移転仮登記、同月八日に所有権移転登記をそれぞれした。しかし、岡田と季潮の間の本件土地の賃貸借契約に関する書類は提出されておらず、右契約締結の経緯は不明である。

以上のような本件土地に対する飯田の賃借権設定仮登記、季潮の仮登記賃借権移転仮登記の各時期及び内容、本件建物に対する被告の賃借権設定仮登記、季潮の所有権移転登記の各時期及び内容、岡田牧子と飯田の関係、被告と季潮の関係、本件請負残代金の支払延期の事情及び飯田と原告、被告との連絡状況並びに後記で認定する飯田の被告に対する賃料債権譲渡の詐害性、被告の業務内容等、本件に表れた諸事情を考慮すると、飯田、被告及び季潮は、本件建物に賃借権を設定すれば、本件土地の価格が著しく下落し、抵当権の実行が極めて困難になるであろうことを十分に認識していたものということができるし、本件土地に対する岡田牧子と飯田間及び岡田牧子と季潮間の各賃貸借契約の締結の事情が不明確であることを併せ考慮すると、これらの契約が真実正当な利用関係の設定を目的として締結されたものといえるかどうか疑問があるといわざるを得ない。

前記説示のとおり、当裁判所は、本件において、前記の理由から法定地上権が成立しないと考えるが、仮にこの点は措くとしても、新建物について法定地上権が成立するためには、少なくとも、当該抵当権設定当事者ないし新建物所有者間において、正常な法律関係が存在し、正当な利用関係が継続されていることを前提とするべきであるから、右事実によると、本件においては、法定地上権が成立しないと解するのが相当である。

(二)  飯田が被告に対し、東食品及びフランスエスパスに対する平成四年八月分から平成七年七月分までの本件債権(合計月額賃料二九六万一二九二円)を、月額五五万六〇〇〇円で譲渡した行為について、被告は、建物の瑕疵や賃借人との紛争があることから、本件債権譲渡は相当な対価によるものである旨主張するが、本件建物の具体的な瑕疵の内容、状態については明らかでなく、フランスエスパスが飯田に対して現実には賃料を支払っていなかったこと(証人尾中完次の証言により認められる。)及び保証金二〇〇〇万円の運用利益を考慮してもなお、著しく低廉な価格による譲渡といわざるを得ない。

一方、原告は、本件建物に抵当権を設定しているものの、前記のとおり法定地上権は成立しないと認められるから、飯田としては、右抵当権が実行されるまでの間、本件建物の賃料収入を得るのみであって、本件建物の不動産としての価値はないに等しく、原告が抵当権を実行しても、本件建物の売却代金により債権の回収を図ることはできないものと認められる。

したがって、飯田の行った本件債権譲渡は、債権者を害する行為というべきである。

6  詐害意思

前記認定の事実によると、請求原因3(一)及び(二)の各事実が認められ、証人尾中完次の証言によると、季潮は、通称大山潮といい、被告の取締役である大山光夫の妻であることが認められる。

前記認定事実によると、飯田は、自己に資力がなく、みるべき唯一の財産ともいえる本件建物の賃料債権等を低廉な価格で譲渡すれば、総債権者に対する弁済資力が失われ、債権者を害するに至ることは、十分に認識していたものと推認されるから、飯田は、本件債権譲渡について、詐害の意思があったものと認めるのが相当である。

二  抗弁について

1  抗弁1の事実について、前記認定事実及び証人尾中完次の証言によると、被告は、平成四年七月一〇日ころ、丹羽義博の紹介で飯田と知り合い、同人から、賃借人との間でトラブルが絶えないから、本件建物を一括して賃借してほしい旨の申入れを受けたので、建物賃貸借ではなく、賃料債権を譲り受けて本件建物を管理することを約束し、同月二一日、飯田との間で賃料を月額五五万六〇〇〇円、保証金二〇〇〇万円と定めて賃料債権の譲渡を受けたことが認められる。

2  抗弁2の事実について、証人尾中完次は、飯田の資力については全く調査せず、本件建物を所有しているくらいであるから資産家だと思っていた旨証言しているが、平成四年七月当時は、飯田が原告に対して小切手の支払期日の延期を何回かにわたって求めた時期であること、その直後に原告との間の連絡が途絶えたこと、ところが、被告との間では、同年一〇月までは連絡を取れる状況にあり、季潮は、同月五日本件土地の仮登記賃借権移転仮登記をし、同月八日本件建物の所有権移転登記をしていること、季潮は、被告の取締役である大山光夫の妻であること、その他前記認定事実を総合すると、前記証言は採用できない。

その他抗弁2の事実を認めるに足りる証拠はない。

3  以上の事実を総合すると、被告は、本件債権譲渡が債権者を害することを知らなかったとは認められない。

三  以上によれば、本訴請求は、本訴請求債権の譲渡を詐害行為として取り消し、東食品に対して右取消しの通知をし、被告が現実に受領した二一六万二九二五円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大藤敏 裁判官窪木稔 裁判官相川いずみ)

別紙物件目録

(一)・所在 港区北青山三丁目

地番 四〇番一九

地目 宅地

地積 14.37平方メートル

・所在 港区北青山三丁目

地番 四〇番四五

地目 宅地

地積 3.93平方メートル

・所在 港区北青山三丁目

地番 四〇番五〇

地目 宅地

(二) 所在 港区北青山三丁目四〇番地一九、四〇番地五〇、四〇番地四五

家屋番号 四〇番一九の二

種類 店舗事務所

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付四階建

床面積 一階 67.60平方メートル

二階 93.27平方メートル

三階 93.27平方メートル

四階 16.64平方メートル

地下一階 123.46平方メートル

(三) 所在 港区北青山三丁目四〇番地一九、四〇番地五〇

家屋番号 四〇番一九

種類 共同住宅

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根四階建

床面積 一階69.74平方メートル

二階 73.91平方メートル

三階 56.13平方メートル

四階 35.97平方メートル

別紙債権目録

別紙物件目録(二)記載の建物の二階及び三階に関する賃貸人飯田浩美、賃借人東食品株式会社間の賃貸借契約における平成四年九月分から一一月分までの賃料

別紙小切手目録

(一) 番号 FQ09895

金額 二億七二五七万九九二八円

支払地 東京都新宿区

振出地 東京都新宿区

支払人 株式会社三菱銀行新宿新都心支店

振出日 平成四年七月三一日

振出人 株式会社シーダブルジェイ(支払拒絶証書作成免除)

同 飯田浩美

持参人払式

(二) 番号 FQ09896

金額 二九一万七五二五円

支払地 東京都新宿区

振出地 東京都新宿区

支払人 株式会社三菱銀行新宿新都心支店

振出日 平成四年七月三一日

振出人 株式会社シーダブルジェイ(支払拒絶証書作成免除)

同 飯田浩美

持参人払式

(三) 番号 FQ09897

金額 一六八万九二〇〇円

支払地 東京都新宿区

振出地 東京都新宿区

支払人 株式会社三菱銀行新宿新都心支店

振出日 平成四年七月三一日

振出人 株式会社シーダブルジェイ(支払拒絶証書作成免除)

同 飯田浩美

(四) 番号 FQ09898

金額 五九八万三二二三円

支払地 東京都新宿区

振出地 東京都新宿区

支払人 株式会社三菱銀行新宿新都心支店

振出日 平成四年七月三一日

振出人 株式会社シーダブルジェイ(支払拒絶証書作成免除)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!